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意思決定システム科学とは
「意思決定システム科学」は、様々な意思決定状況という対象に対して、システム科学の視点から接近しようとする(システム思考あるいはシステムアプローチと呼ばれる)学問体系であり、必然的に、その対象も方法論もともに幅広いものとなる。もちろん、問題対象の性質がそれに対する適切な接近方法を規定し、同時に、様々な方法論はその考察対象としてある範囲の問題状況を想定している、という意味で方法論は相互に関係している。なお、マネジメントとは本来「物事にうまく対処する」という意味であるから、意思決定システム科学とシステムマネジメントとは、ほぼ同義と考えてよい。
それでは、「意思決定システム科学/システムマネジメント」の研究領域を、大きく
- 意思決定のモデル学
- システム思考あるいはシステムアプローチ
(現実世界の意思決定状況に対するシステム概念の適用に関する研究)
に分類し、それぞれの領域で当研究室がどのような研究を行っているのか説明しよう。
ここで述べるテーマに興味を持つ者が大学院生として当研究室に所属すれば十分な指導と教育を与えることができると確信している。しかしながら、当研究室では、ここで掲げたテーマに縛られることなく、各人のもつ研究の関心をできるだけ伸ばす形で摺り合わせを行い、それぞれの学生が自らの知的興味を追求している。
1. 意思決定のモデル学
ハードシステムアプローチと呼ばれる分野であり,様々なレベルの意思決定行動を観察者として「外側から」記述し分析するモデルを構築する。具体的には,オペレーションズリサーチやゲームのモデルなどのような最適化モデルから,ハイパーゲームモデル,非合理性を取り扱おうとするドラマティックモデルなど,ユニークなモデルを提唱し研究している。
特に、従来のゲーム理論では明示的に扱われなかった、プレーヤーの主観的な問題認識、他者の相互(誤)認識や学習に焦点を当てた「ハイパーゲーム理論」「知的多主体の学習モデル」、また、合意形成に至るまでのロビーイングや根回しなど意思決定プロセスの交渉段階を「立場」と「脅し」の表明過程として特徴付け合意形成が成立する条件を探る「交渉のドラマティックモデル」は、経営・ビジネス分野だけでなく国際関係の実務からも注目を集めている。また、ドラマティックモデルを基礎とするConfrontation Analysisと呼ばれるソフトウエアが開発され、現実問題の解析と予測に用いられている。
この研究方向の有望性を確信しているものの、我が国ではまだほとんど知られていないので、第1人者である英国のHoward教授、Bennett教授らと緊密に連携を取りつつ強力に研究を進めるつもりである。2005年刊行予定の「交渉システム学入門」にはこの方面の知見が凝縮している。
特に,最近は「多主体複雑系とエージェントベースシミュレーション」の立場から,シミュレーションを中心に社会現象の解明も行っている。特に、アクセルロッドが提唱するランドスケープ理論の拡張とその応用については、ほぼ毎年修士論文のテーマとして研究を行っている。また、高木晴夫慶応大学教授、出口弘東工大教授らと作るポリエージェント研究会から、2003年6月にはダイヤモンド社から、アクセルロッドの著作の翻訳を刊行した。
人間の主観性や非合理性などを組み込んだ数理的モデルを構築し、人間や社会の振る舞いを合理的に説明できる限界を見極めようとする、ハードシステムアプローチとソフトシステムアプローチを融合するいわばハイブリッドシステムアプローチは、我々のもっともユニークな研究領域である。平成16年度21世紀COEプログラム「エージェントベース社会システム科学の創出」が選定されたのはこの分野の研究が基礎となっている。
なお,モデル学の基礎として,以下のような,いわゆるシステム論自身についての研究も行っている。
- システム概念の哲学的考察:
- システムとは何か、システムとして対象を捉えることはどのような意味があるのかといった研究で、システム科学のもっとも基礎的な部分である。
- 一般システム理論:
- バータランフィーらによって唱えられ、ミラーらのLiving Systems Theoryを含む。バータランフィーらによって設立されたISSS(Int. Society for Systems Sciences) や英国UKSS(UK Systems Society)と緊密に関係し、その最近の研究領域をウオッチしている。その中で、Peter Checkland, Mike Jackson, George Klir, Gu Jifaら会長クラスの研究者や若手のJeffery Lin, Carl Ma らとの交流を深めている。
- サイバネティクス:
- ウィナーからアシュビーに繋がるコントロールとコミュニケーションの一般理論である。システム科学のもっとも重要な主張の一つである「アシュビーの最小多様度の法則」の数理的定式化は、我々の研究成果の一つである。また、システムの複雑性の解明・記述も大きなテーマである。
- 数理的一般システム理論:
- 一般システムと呼ばれる数学的モデルを対象にした理論的研究。一般システムモデルは大きく、入出力モデルと目標追求システムモデルに分類できるが、それらは数学的には同値であることが知られている。
また、私の博士論文「意思決定基準に関する研究」は、この研究領域のテーマに関係している。意思決定において、与えられた代替案集合に選好順序を導入する方法を意思決定基準と呼ぶ。たとえば、マックスミン基準や線形加法和基準はその代表的なものである。いくつかのよく知られた決定基準に対して、その特徴付けをカテゴリー理論の枠組みの中でおこなった。その結果、決定基準を特徴づけるのは、本質的には、どの決定状況とどの決定状況とが似ているものと捉えるかという「類似性の概念」であり、この類似性概念は決定基準ごとに異なることを示した。
- サイモンの流れを汲む組織論、組織のマネジメントに関する研究:
- 研究室における様々な研究を支える基礎となるものえあり、ゼミ等でも折に触れ取り上げられるテーマである。
2. システム思考 システムアプローチ
現実世界に対してシステム概念を適用しようとする研究の幅は広いが、ISSSでも特に注力されているのは、複雑な問題状況・意思決定状況を、システム的に取り扱うことでこれに支援する方法論の研究である。
ソフトシステムアプローチとよばれる、問題構造さえもが不明確な問題状況に対して介入しその構造を明らかにし、できればその改善をもたらそうとする方法論に関する研究である。 Checklandによって提唱されたソフトシステム方法論(SSM)の我が国における紹介者としてその理論的実践的研究を社会人博士課程の学生と進めている。具体的には、プロジェクトマネジメント・ナレッジマネジメントとソフトシステム方法論との関連、あるいは教育の方法論としてのソフトシステム方法論の意義などについて、理論と実践両面から考察している。また、そのほかのソフトシステムアプローチや最近特に注目されているマルチメソドロジーについて、国際的な人脈も生かしながら研究している。なお、ソフトシステムアプローチは基本的に英国や北欧でエスタブリッシュされた思想であるが、最近は、米国でのこの種の動向にも注目している。
参加型集団熟慮と呼ばれる,政策形成の支援の システムについて,シナリオワークショップやフォーカスインタビューといった手法とともに,現実の問題(千葉県の三番瀬問題)にアプローチしようとする社会実験に、システムアプローチの視点から参加している。